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山崎ビロードのベルベットマジック ロマンティック素材最前線(2)

1997.08.21

gap JAPAN 1997 7・8合併号
浪漫が重層するその歴史
 ベルベットというというフランス風の響きではなく、今でもビロード、天鵞絨と呼んでいる人は多いだろう。ポルトガル語のベルドから来たその名は、まさにその名は、南蛮渡来の浪漫を今に伝えているといっていい。ロマンティック素材の筆頭にあげるにふさわしい格式だ。ヨーロッパでは中世から、キリスト教寺院の祭壇用掛布や司教の祭服に使われるという、神聖荘厳の織物だった。
 このうち文様を描き上げる紋ビロードは、14縲鰀16世紀にかけて、ルネッサンスが高揚するイタリア・フィレンツェの名産であり、ベルベットという名も、その生産に力があったベルティー家からきているというから、中世、ルネッサンスと続く浪漫でもあった。
 日本には、16世紀にスペイン、ポルトガルの南蛮船を通じて渡来した。織田信長愛用と伝えられる金糸縁取り、4匹の龍を金糸で刺繍した黒のベルベット陣羽織、米沢の上杉神社に奉納されている、上杉謙信用と伝えられる緋地花唐文様のベルベットマントも、南蛮渡来の天鵞絨を今に伝える証人である。
 日本で織られるようになったのは、17世紀半ばか、あるいはその末期かといわれるが、このように江戸初期から京都西陣で織られた伝統逸品だった。勿論当時のそれは、今のように経緯ポリエステルにレーヨンパイルを機械で織るといったものではなく、経緯、パイルすべてシルクを手織したもので、大衆向けには経緯はコットンを使っても、パイルはシルクだった。平織の他に綾織、繻子織もあり、緯糸に金糸、彩糸を使った「金華山」は高級帯地、装飾布として、天鵞絨の頂点に君臨した。やがてそこから、昭和モダンを演出するベルベットショールが生まれ、浪漫織物の歴史一頁を加えることになった。
 しかし西陣ベルベット300年の歴史に、閉幕の日が訪れる。今もその伝統を守る二代目杣彰二の杣長を除いて、他の業者は機械織に転換してまで、ベルベット生産を継続する意思はなかった。こうして北陸に勃興した織物産地のなかの鯖江、今立が西陣に替わって、日本ベルベットの伝統を継承することになった。
 孤塁を守った杣長は、京都の他にも鯖江にも工場をもって意気軒昴、パフでは独占的な地歩を確保している。白粉を付けるパフはベルベット製だが、白粉がよく付いて、叩けばよく落ちる機能には、織物に独特の工夫がいる。杣長はそこに、他社の追随を許さぬノウハウを築いた。
 さらに杣長が他社を引き離しているのは、輪奈ビロードの装置をもっていることによる。そもそもパイルを立てる立毛織物には、和歌山県高野口を主力にするフェイクファー、静岡県福田を中心とする別珍、コーデュロイと、福井県中心のベルベットがあるが、このうちベルベットとフェイクファーは、二重織物のなかにパイル糸を織り込み、それを2枚に開いて、パイルを表面に浮き立たせる技法で共通している。しかしフェイクファーでは毛皮の風合いを求めるところから、パイルにアクリル中心に紡績糸を使い、その毛羽は太く長い。それに対してベルベットは、かってはシルク、今は主として基布部分の経緯にはポリエステル、パイル部分には、かってはアセテート、今はレーヨンで、シルクの風合いを出すためにいずれもフィラメント糸を使う点で異なっている。
 これに対して別珍、コーデュロイは二重ビームを使わず、コットン主力で1枚の布を織り、その緯糸を刃で切って毛羽立たせる。このようにベルベット、フェイクファーと、別珍、コーデュロイでは、技法が基本的には異なっているのだが、ベルベットも輪奈ビロードになると、別珍、コーデュロイに類似している。
 輪奈織では、基布用とパイル用の経糸を交互に並べ、二越、三越ごとにパイル用の経糸を引き上げ、以前はステンレス線、今はポリエステルの緯糸を挿入する。こうして盛り上がったパイル用経糸を、緯に沿ってナイフでカットし、毛羽立たせる。
 この他に杣長はジャガードの装置も装備しており、松田光弘がその仕事に惚れ込んで、これまでのパイル部分のジャガードに加えて、基布にもジャガードが織れる装置の投資を分担したため、杣長は、経糸のためのビーム4台に160コマの糸を加え、さらにジャガード2台を背負うという、世界最強の重装備を実現してしまった。これに杣長の才能と執念が加わることによって、さすが先達とうならせるベルベットが生まれていったのだが、難点は、余りにも高価になってしまうことと、こういうジャガードも輪奈ビロードぼ重くなり、今の軽量ファッションの流れに適応しにくいということにある。
その点杣長に育てられた山崎ビロードは、重厚で古典的な師匠の名作とは異質の、現代感覚溢れる軽量路線を追求し、大きな成功をおさめた。



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